2022年11月18日

消えゆく母国語?

南アフリカ出身で、現在はアメリカ国籍を持っている女優のシャーリーズ・セロンさんが、アフリカーンス語を滅びゆく言語と発言したことで話題になっているそうです。


結論から言えば、アフリカーンス語は滅びゆく言語ではないと思います。ただし、南アフリカに住む白人(アフリカーナーと言われるオランダ系を中心とした人達。かつてはボーア人と呼ばれた。以下白人と評す)がいなくならない限りという条件付きでしょうけど・・・。


まず、アフリカーンス語がどういう言語なのかを知らないといけません。
アフリカーンス語は、英語ではありません。確かに英語も影響していますが、英語の派生語ではなく、元々南アフリカに最初に入植したオランダ人の言葉であるオランダ語をベースにした言葉なのです。そこにフランス語・ドイツ語・ポルトガル語に加え、黒人の言葉であるバントゥー語やコイサン語、さらにアジア系のマレー語も混ざったものとなり、後に宗主国になるイギリスの言語である英語の文法が一部取り入れられていくのです。


さて、セロンさんはアフリカーンス語を「44人くらいしか話す人がいない」と揶揄し、自身の母国語が消えゆく運命になっていることをジョークとして飛ばしたわけです。ただ、44人というのは、明確な間違い・・・とジョークにツッコむのもいかがなものかと思いますけど、これを440万人というふうに捉えれば、さもありなんとなったかもしれないですね。恐らくセロンさんも440万人と評したいところを過小評価して44人と評したのかもしれません。
実際、アフリカーンス語を話す人は600万人ほどだそうです。南アフリカに住む白人は10%ほど、アフリカーンス語は13.5%ほどがメインで話す言葉ということで、一定の地位があることを示しています。ちなみに英語は10%弱というふうです。

じゃあ、どうして物議を醸すことになったのかというと、先述の44人発言から、母国と母国語を軽んじている・アフリカーンス語が滅ぶ可能性はほぼない・アフリカーンス語は南アフリカでは一定の地位があるという点・南アフリカの公用語の一つであるという理由があるなどで批判されています。彼女は南アフリカ国籍は現在有していない、アメリカ在住の人間なのにという見方もあるようです。
一方で彼女の発言を支持する動きもあり、恐らく過去アパルトヘイトで虐げられた黒人・カラード(黒人とアフリカーナーなどとの混血)・インド人などアジア系で構成されている有色人種の方々やアパルトヘイトに反対していた人達が主になるでしょう。彼らから見れば、アフリカーンス語は支配の象徴でもあり、アパルトヘイトの象徴でもあるからです。事実、1976年に起こったソウェト暴動のきっかけは、アフリカーンス語の有色人種への教育(強制取得)でしたから、そう捉えられても致し方ないとも思います。


再び結論を言いますが、アフリカーンス語は滅びゆく言語ではないと思います。ただし、南アフリカに住む白人がいなくならない限りという条件付きです。ただ、アフリカーンス語は南アフリカ国民の間の共通語として機能できたと思いますが、アパルトヘイトという苛烈な人種隔離政策の象徴である限り、それも難しいでしょう。白人の優越を認めることになると有色人種が反発するからです。
そうなると、10%弱しかメインで話さない英語が南アフリカ国民の間の共通語として機能することになっていくかもしれません。英語も旧宗主国のイギリスの影響で、公用語の一つになっています。実際アパルトヘイト撤廃後、急速に普及した経緯もあります。現状では、英語は母国語ではないけれども、第二言語として取得している人達が多いそうです。


個人的には、彼女の発言がきっかけで、南アフリカという国の歴史を知るきっかけになってくれればと思います。その上で支持するも批判するもよしではないかと思っています。


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Posted by alexey_calvanov at 23:34Comments(0)