2016年06月24日

Leave!

イギリスでEU(ヨーロッパ連合)の残留か離脱かを巡って行われた国民投票。終盤までどう転ぶかわからない中、審判の日を迎えました。
その結果、EUからの離脱が過半数(51.9%)を占めることになりました。直前の調査では残留が勝つとという予想も出ていたため、楽観視していた中でのこの結果。イギリス国内だけでなく、EU加盟国、日本も含めた世界中に動揺が広がったのです。


直接この問題が噴出したきっかけは、2004年以降に起こったEUの東方拡大と2010年のギリシャ危機。
2004年から東ヨーロッパ諸国がEUに加盟したことで、安価な労働者が国境の制限なく流入。イギリスも御多分に漏れず安価な労働者を受け入れてきました。ところが、最低賃金よりも安い労働者が増えすぎたことで、自国の労働者が雇用を受けられなくなったという訴えが増えてきました2011年に起こったアラブの春以降増えた中東難民も将来的にイギリスに入って混乱を巻き起こすと危惧していました。
またギリシャ危機の発生により、通貨ユーロがガタガタの状態に。イギリスは自国通貨を維持していたため直接的な影響はなかったものの、ますます労働者の流入が止まらなくなりました。もちろん、稼いだお金をギリシャなどの貧困国に流れるのを快く思っていなかったし、長年大英帝国(現在はイギリス連邦)を率いているという自負もあり、独仏主導のEUに対し快く思っていないという点も特筆に値します。

以上の経緯から、EUへの離脱が声高になってきたため、キャメロン首相は自身が率いる保守党が過半数を確保したなら、2017年までに国民投票を行うと宣言してしまったのです。その後、実際に保守党が過半数を確保。ますます国民からの突き上げに遭い、最終的に今日、国民投票を行うことになったのです。しかし、EU離脱がメインの保守党の中で、キャメロン首相はEU残留を訴えているというねじれを起こしていたんですね。

もし残留すれば、EUの枠内で自由な貿易ができることになり、同じく関税がかからないという特権も得られるはずなのです。安価な労働者の流入は弊害だったとも言えるわけです。


今回EU離脱が決まったことで、イギリスは多くの障害を抱えることになりました。まさに内憂外患状態です。

外患としては、EU加盟国との交渉が待っています。原則2年というリスボン協定の条文があるのですが、様々な事象を詰めなければならないので、最低でも7年、最長10年離脱に関しての交渉を行わなければならないと言われています。ましてや、キャメロン首相はEU離脱が決まったことで辞任。10月までは首相の座にいるものの、本格的な交渉は次期首相(離脱派のリーダー)が務めることになるでしょう。かじ取りに大きな不安が残ります。
経済的なダメージも計り知れません。EU離脱が決まり、今後の『特典』もどうなるかわからない。最悪の場合、感情論に至ったEU加盟国によって、全ての『特典』を失わされる可能性もあるため、企業によってはイギリスから離脱するケースも出てくることでしょう。安価な労働者によって奪われ仕事を取り戻すために離脱支持を打ち出したにもかかわらず、離脱支持を打ち出したことで会社(の本社機能)が流出して、ますます自分達の首を絞める事態になりかねないのです。
逆にイギリスが自由に関税などを設定できるため、輸出産業に有利になる可能性があると言われてもいますけれど、効果は限定的でしょう。

内憂としては、まず挙げられるのはEUの一員になることを望んでいたスコットランド
今回の投票結果では全ての地域でEU残留が勝ったため、EU離脱が決まった今、もはや残る意味がないという声が挙がってくることでしょう。実際、スコットランド民族党は再度独立への住民投票を行うと発表しています。同じように、北アイルランドも残留派が多数を占め、EUとの差ができることを恐れた住民の中から独立ないしはアイルランドとの統合を求める声が出てくる可能性もあります。そうなると、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国としてのイギリスは、最悪の場合、イングランド・ウェールズとしてのイギリスという、かつてのユーゴスラビアからセルビア・モンテネグロのようなふうになる可能性もはらんでいるのです。


そして、イギリスで巻き起こったEU離脱のうねりは、ドミノ現象を引き起こす可能性もあるのです。
既にオランダ・フランス・ドイツ・イタリア・スペイン・ギリシャ・オーストリアなどEUに懐疑的な政党や組織は、ヨーロッパ議会にも一定数いるのですが、それぞれの国内でも与党への視野が入っているところもあります仮に彼らが政権を取るないしは現政権への突き上げを激しく行った場合、イギリスと同じように国民投票を求め、最終的にはEU離脱にフルスロットルで移行していくことになりかねません。そうなったら、待っているのはEU崩壊です。


この問題、日本にとって対岸の火事ではありません
もちろん、アジアにヨーロッパ連合みたいなものができるという意味ではありませんEU域内の安価な労働者や難民は、置き換えれば体制が崩壊した際、中国や北朝鮮の国民が難民となって押し寄せる・・・こうなった時に同じ経験を日本でも体感しかねないのです。もちろん、今回のEU離脱に伴う日本経済への影響は計り知れないでしょう今こそこの問題を直視し、将来起こりうる問題として捉え、どうするのか対策を練っても遅くないと思います。


ヨーロッパはパンドラの箱を開けてしまったとも言えるでしょう。パンドラの箱には最後は希望が残ったと一般的に言われています(予兆・予知・前兆という説もある)。その希望が本物なのか偽りなのか、はたまた希望そのものが厄災で永遠に人々を苦しめ続けるのか。できることならパンドラの箱を開けた後、最後に残るヨーロッパへの希望は本物であってほしいものです。


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Posted by alexey_calvanov at 23:55Comments(0)TrackBack(0)

2014年09月18日

運命の時は、もうすぐ

イギリス北部にあるスコットランド。この地域の独立の是非を巡る住民投票が始まりました。
当初は独立なんて夢物語というくらいの圧倒的多数で反対派が占めていました。ところが、8月頃から急速に独立賛成派が猛追し、現状では拮抗状態。わずかに反対派が上回ってはいるというふうではあるものの、態度を決めかねている人が1割いることを考えれば、ひっくり返される可能性は無きにしもあらずというわけです。


イギリスは、イングランド・スコットランド・北アイルランドからなる連合王国(グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国)です。なお、イングランド西部にあるウェールズはイングランドに併合されている経緯があるため、構成地域としてカウントされていません
スコットランドは1707年にイングランドと同君王国として併合されて以来、イギリス発展のために尽くしてきたとも言える立ち位置だったのですけれども、大英帝国とまで言われた栄光が薄れた第2次世界大戦後からスコットランドにおけるイギリスの関係がおかしなものになっていきました。特にサッチャー政権が成立した1980年代には、合理化の名の下で国営の工場が続々と閉鎖され、スコットランドに失業者があふれる結果になりました。

その頃から徐々に地方分権運動が盛んになり、その結果1999年に議会が復活します。そこで躍進したのが、今回独立の機運を高めた張本人であるスコットランド民族党。スコットランド議会で過半数を獲ると、一気に独立の是非を問う住民投票をイギリス政府に要求し、2012年に遂に政府が折れて住民投票の権利を勝ち得ることとなります。


ところで、スコットランドが独立するとどうなるのでしょう
スコットランドの青写真は、高福祉の北欧型社会を目指すこととしており、その財源は北海油田であるとしています。また核兵器を持たない非核保有国を目指すとも宣言しています。

まず北海油田はまだ油田として使えるのかがはっきりしません
イギリス政府は、北海油田の採掘量は先細りしているので、当てにできないとしていますが、スコットランド民族党は(枯渇するとされる)2050年以降でも十分採掘可能と見ています。ただ、この北海油田の収入配分がどうなるかは全く煮詰めていない状況です。

核兵器に関しては、核ミサイルを積んだ潜水艦の基地がスコットランドにあり、それを撤去しようと動いているのですが、他の地域にそれが配備できるかというとさにあらず現状ではかなり困難を極め、もしかしたら無理なのかもしれないとさえ言われています。

経済面でも不安は付きまといます。
スコットランド民族党はイギリスポンドを継続的に使えるとしています。しかし、イギリス政府はそれを認めていません。もし、イギリスポンドが使えないとなると、独自通貨ないしはユーロを使うこととなり、混乱が予想されますイギリス国内も世界の信頼と発言力を失い、一時的に混乱に陥る可能性もあります。
仮にユーロを使いたいとなった場合、EU加盟が絶対条件になります。しかし、スコットランドが新規加盟国扱いになった場合、EU加盟は全会一致の賛成が条件のため、困難を極めることとなるでしょう。同様な民族問題を抱えるスペイン・イタリア・キプロス・ベルギー、そして『宗主国』であるイギリスなどが反対に回る可能性があるからです。

国家元首の扱いも焦点になっています。
スコットランドは同君王国時代よろしく、エリザベス女王を国家元首として定めるとしていますが、当の本人は許しているわけではなく、むしろ独立反対を鮮明にしたため、将来英連邦に加入できるのかさえもわからない状態になっています。スコットランドとしては共和制でも問題ないとはいえ、世界的な信用度合が経済と共に変わってくる可能性があるから、後ろ盾が欲しいのでしょうね。

そして、独立が過半数だった場合、先述の民族問題を抱える国で炎上する恐れがあります。
スペインのバスク・カタルーニャ・ジブラルタル、イタリアの北部とサルデーニャ、フランスのコルシカ、ベルギーのフラマン語地区、デンマークのフェロー諸島とグリーンランド、そしてイギリスの北アイルランドとマン島・・・と西ヨーロッパだけでも思い出せる限りこれだけあります。そこに旧東ヨーロッパとキプロスでの問題が加わります。クロアチアのセルビア人地区とキプロスの北部にある北キプロス・トルコ共和国です。
もちろん、この問題はヨーロッパに留まらず、全世界に広がって行く可能性もあります。日本でも沖縄の独立論が、居酒屋談義レベルとはいえ潜在化している事実があります。決して対岸の火事ではないのです。


この住民投票は日本時間の9/19の6:00(現地時間の22:00)に締め切られ、即日開票を経て公表されます。その公表は早ければ日本時間の昼過ぎ(現地時間の朝早く)。運命の時は刻一刻と迫っています。


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Posted by alexey_calvanov at 23:58Comments(0)TrackBack(0)

2013年02月19日

イギリス人「ウマくても許せん」

どうやらかつてない騒動に陥りそうです。


フランスで製造され、イギリスやアイルランドで販売していた牛肉100%と称した冷凍のラザニアやハンバーグなどの中から馬肉が混入されていた事が発覚したのがそもそもの発端。大規模な回収騒ぎになりました。

普通に考えれば、日本でそんなことが発覚しても、「何でそんなことで騒いでるの?」と思ってしまうかもしれません。しかしながら、イギリスに関して言えば、近代競馬発祥の地という点と古来から馬が犬と同じくらいに身近な存在だったことから、馬を食べるというのがタブー視されていました(ただし、法律では禁止されておらず、一部の商品には元々混在していた)。アイルランドが同じような措置を取ったのも、長い間イギリスの植民地だったことが経緯として挙げられるでしょう。なお、逆にフランスなどヨーロッパ大陸では、馬肉は一般的な肉として売られています
平たく言うなら、日本で競馬や乗馬に関する事業に関わっている人や競馬・乗馬好きに馬肉を出すのがいけないのと同じことで、ノザキの馬肉入りコンビーフを振舞おうものなら、その缶詰ごと投げつけられるというふうに思えばわかりやすいでしょう(苦笑)。

ただ、単純に馬肉が混ざっていただけなら、タブー視している国以外の回収までしないでいいのに、それでもなおヨーロッパ中のスーパーから馬肉入りの可能性のある商品が消えたのかというと、馬肉の中に抗生物質を打っているものがあり、その抗生物質が人間の身体に悪影響を与えかねないということが発覚したからです。


そもそもどうしてそんな粗悪な肉が混ざり拡散したのかというと、EU(ヨーロッパ連合)ゆえの弊害が言ってしかるべき理由でしょう。
フランスの業者が買った馬肉はポーランドやルーマニアから仕入れたものというふうに言われています。そのポーランドはこのことを否定し、ルーマニア産の馬肉が悪いと言いだします。ところが、そのルーマニアでもそんなことはないと真っ向から否定。ただ、恐らくそのあたりから来た馬肉ではないかと言われておりますが、真相はやぶの中・・・というふう。いわばヨーロッパという巨大なエリアゆえに起こったなあなあな体質がそのままヨーロッパ中に伝播させてしまった原因なのではないのかと思います。


今回のケースは入っていてはいけない物質が入っていたがために、回収ということで大きくなっていますが、もし単純に馬肉が混入されていたというふうなら、単純にイギリスとアイルランドの問題で終わっていたとも感じています。
ただ、食のタブーというのは思わぬところで出てくるので、細心の注意を払わないといけません。特に宗教上の理由で食べられない(イスラム・ユダヤなら豚、ヒンズーなら牛)場合は、状況によっては自身も罪に問われかねないので、気を付けなければなりません。


タブーにうるさくない日本人も今回の件でもっと食材に対し注意を払うべきではないかと思います。


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Posted by alexey_calvanov at 23:17Comments(2)TrackBack(0)

2011年08月10日

来年のオリンピックは大丈夫なのか?

来年の今頃はロンドンオリンピックがクライマックスになっていて、8/12にはマラソン競技が開催されて閉会式・・・という段取りになっているものと思います。
来年行われるロンドンオリンピックはオリンピック史上初の3回(1回目は1908年、2回目は1948年)開催で、夏のオリンピックとしては記念すべき第30回大会になります。ちなみに、日本は3回目で初めて選手団を送り込む大会になります(日本がオリンピックに初めて参加したのは1912年のストックホルムオリンピック。1948年の際は、敗戦国ということで参加できなかった経緯がある)


ところが、そのオリンピックムードが盛り上がろうとしていた矢先、大変なことになっています

ロンドン北部にあるトットナム地区で、警察官が黒人男性を射殺したことがきっかけで、人種差別だと訴えた人達が大規模なデモを実施。それがインターネット(ツイッターやフェイスブックなど)で拡散されロンドン各地や地方都市(リバプール・バーミンガム・マンチェスターなど)にも拡大暴動だけにとどまらず、一部では放火や略奪行為まで起こっているそうです。
現在は警察官を増員して徹底した抑え込みを図っているようですが、正直どこまで持つのか気懸りです。


ところで、イギリスという国は、いわゆる白人(正確にはアングロ・サクソン系)しか住んでないんじゃないの・・・と思われる方も多いかと思いますが、かつて大英帝国とも言われる広大な植民地を持っていた経緯があることから、主にアジアやアフリカからの移民や難民が多く住んでいます。そのため、今回悲劇の舞台になったトットナム地区は移民の多い貧民街の側面もあります。
そしてイギリスばかりでなく、ヨーロッパ全体で言えることですが、第2次世界大戦後、労働力欲しさに大量の移民を受け入れてきたという背景もあります(特に有名なのが、フランスの旧アフリカ植民地移民、ドイツのトルコ人、イギリスのインド系移民)。それに加え、過去の戦争を教訓にして、EUなどが結成されたため、ヨーロッパでは『多文化共生』が重要なキーワードになっています。

しかしながら、経済の行き詰まりをきっかけに、その反動が現在ヨーロッパの各国を襲っていまして
古くはイタリアの北部同盟(北部と南部の経済格差に嫌気がさした北部の人々で結成。北部独立とEU脱退が当初の目標だった)、フランス・オーストリアでの極右政党の躍進、ドイツのネオナチ問題など。最近ではオランダ・フィンランドでの極右政党の躍進、ノルウェーのキリスト教至上主義者のテロ活動などが記憶に新しいと思います。


今回の暴動は、元々くすぶっていた民族差別や極右的思想が、遂に元々そういった点では穏やかだと思われたイギリスでも表沙汰になってきたという恐ろしい事態でもあります。また、キャメロン首相が多文化共生を「失敗した(政策)」とみなした発言も、今後大きな影響を与えかねません
国内に住む移民にとって保守党(キャメロン政権)が大きな脅威になりかねないのではと推測し、保守党(キャメロン政権)に対して血を見るほどの大規模なアンチテーゼを起こす可能性もあります。さらには、地方分権を訴えるスコットランドの『独立』への動きが加速しかねないばかりか、最悪イギリス崩壊に進む可能性も無きにしもあらずでしょう。


ロンドンオリンピックはテロ対策では万全の準備をしていたんでしょうけど、国内の暴動対策には無策だったのでしょう。既に一部のプレ競技が中止に追い込まれています。


もうロンドンオリンピック開会まで1年を切っています。ロンドンのオリンピック委員会は、テロという外患だけでなく、(サッカーでの暴動の比ではない)暴動という内憂で対策を練らないといけなくなってしまいました。
来年のオリンピックを無事に見たいものです。


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Posted by alexey_calvanov at 23:49Comments(0)TrackBack(0)